たかひで鍼灸接骨院
五輪書
「五輪書」に見る治療家とは・・私見
「五輪書」は宮本武蔵玄信の著で武蔵野人生観、合戦の理、兵法などについて書かれたものです。「五輪書」はビジネスや人生の指南書として訳されていますが、治療を行うものが教訓、院是としても大変有意義だと思います。日々の臨床で感じたことなど参考にして、私見を加えみていきたいと思います。
火之巻から
一、場の次第といふ事: 意味としては「場の徳」
・相手より良い場所を得る。自分の場所を認識し「場」の勝ちを得るということです。
・治療院における下準備というところでしょうか。ベットやシーツはもちろん、白衣や身だしなみ、照明や温度、道具や機器の点検、健康状態など治療に関わる一切を整え、治療に専念できる「場」を作ること。
一、三つの先といふ事: 心を読み機先を制する。先手必勝。
・先を読み敵をリードし、イニティアシブを取るということです。
・患者の話は聞くが、わがままに振り回されない。患者の状態を逐一観察、予測し後手にならない。
・患者の心を読む。症状に対する感情、不安、期待を感じとり、的確な指示が出せること。
一、とをこすといふ事: 意味は「海を渡る」という事。
・自分の技能を自覚し重大な局面を乗り切るということ。
・鑑別診断は重要で適応疾患か、医療機関を紹介した方がいいのかの初期判断。
・思い上がりや間違った知識は、患者の不利益になりかねない。
一、けいきを知るといふ事: 敵の長所や短所を把握し勢いを察知し状況に応じて仕掛けるという事。
・臨床では問診もですが、視診が大事で来院時の雰囲気、声、匂い、姿勢など観察し治療内容の加減が必要。
・治療経過が良い場合はいいが、停滞期があるとどうしても患者は迷います。治療家は信念をもって対応します。
・身体症状には、必ず心の問題が絡んでいる、感情の変化を観察。
一、敵になるといふ事: 敵の身になりその心の難関を考え、敵の心理状態の分析、推理をする事。
・患者への「共感」は大事ですが、治療家と患者の関係は保ってことにあたる。
・「病」は気づいた時から「病」になる。言葉一つも誠意をもって接する。
・患者が何を求めているか、来院動機は何か、何が出来て何が出来ないのか。
一、うつらかすといふ事: うつす、引き込むという事
・.自分ではそうでなくても他人に影響を与えること。
・治療家の心、態度、言葉は必ず患者に影響を与える。
・誠心誠意、誰にも同じように接する心が大事。治療家は見られている。
一、三つの声といふ事: 掛け声の事。声は勢力を見する也。
・挨拶や声掛けです。笑顔と元気を与えます。
・患者はわがままで自分を見てほしい、気にかけてもらいたいと願っています。節度ある対応が必要。
・治療家は心も体も健康で万全の状態をキープします。
一、さんかいのかかわりといふ事: 同じことを何回も繰り返さないという事
・過ちは繰り返さない。反省の心。
・治療は繰り返しが多い、患者及び治療に飽きない。
一、あらたになるといふ事: もつれる心。はかゆかざる時、新しく始める気持ちで事にあたるという事
・初心忘れるべからず。慣れや狎れは禁物。
・治療が行き詰まった時こそ、真価が問われる。焦らず、驕らず、誠実に。
・初診時に戻ることではない、気持ちを切り替えることが大事。
一、そとうごしゆといふ事: 鼠頭牛首といい、鼠の持つ繊細さと牛の持つ大胆さを兼ね備えよという事
・鍼灸は「気」の医学です。繊細な感受性は日頃からの努力が大事。
・治療計画を立て大胆に仕掛ける。気持ちが弱いと「病」に負ける。
・自分は治療家の鏡、憧れの的である。
一、つかをはなすといふ事: 太刀の柄を放す事。刀に拘っている我が心を放つという事。
・患者の喜びのために誠実を尽くし利害を忘れる。
・思いがけず良い結果が出ると天狗になり慢心しやすい、忘れてしまいましょ。
・生き残るのは強いものや優秀なものではない、変化した者だけが生き残る。
水之巻から
兵法心得の事:常にも、兵法時にも、少しもかはらずして、心を広く直にして、きつくひっぱらず、すこしもたゆまず、こころのかたよらねやうに、心を真ん中におきて、心を静かにゆるがせて、其ゆるぎのせつなも、ゆるぎやまねやうにすべし。
・卓見である。平常心。
・臨床は真剣勝負の「場」である。来るものは拒まず、去る者は追わず、決して愚痴や悪口は言わない。
・日々出来ることを淡々と、心を直にしてわが身をひいきにしない。
風邪之巻から
「他流の道を知らずしては、我が一流の道たしかにわきまえがたし」
・治療法は無限です。患者の利益を一番に考える。
・他流を軽蔑せず、解らないことは教えていただく。
・真似することはやめる。付け焼刃はボロが出る。
地之巻から
一に、 よこしまになき事をおもふ所
二に、 道の鍛錬する所
三に、 諸芸にさはる所
四に、 諸職の道を知る事
五に、 物事の損得をわきまゆる事
六に、 諸事目利を仕覚ゆる事
七に、 目に見えぬ所をさとつてしる事
八に、 わづかなる事にも気を付くる事
九に、 役にたたぬ事をせざる事
参考文献
宮本武蔵著 渡辺一郎校注 「五輪書」岩波文庫